この前、高階杞一の詩を紹介したら、何だかこの詩人が気になって、Amazonでハルキ文庫の『高階杞一詩集』を買ってしまいました。
手に取ってみてみると、「本書は、ハルキ文庫のためのオリジナル編集です」とありました。
今朝は、その中の一風変わった作品をお届けします。
「キリンの洗濯」 高階杞一
二日に一度
この部屋で キリンの洗濯をする
キリンは首が長いので
隠しても
ついつい窓からはみでてしまう
折りたためたらいいんだけど
傘や
月日のように
そうすれば
大家さん
に責められることもない
生き物は飼わないようにって言ったでしょ って
言われ その度に
同じ言い訳ばかりしなくったってすむ
飼ってるんじゃなくて、つまり
やってくるんです
いつも 信じてはくれないけれど
ほんとに やってくるんだ
夜に
どこからか
洗ってくれろ洗ってくれろ
と
眠りかけたぼくに
言う
だから
二日に一度はキリンを干して
家を出る
天気のいい日は
遠く離れた職場からでもそのキリンが見える
窓から
洗いたての首を突き出して
じっと
遠いところを見ているキリンが見える
(詩集『キリンの洗濯』 あざみ書房・1989年刊)
動物園の動物の中では、私はキリンが一番好きなのです。
なぜだろう?
たぶん…アントニオ・カルロス・ジョビンの「WAVE」というボサノバのアルバムジャケット(1967年)に影響されてると思います。
サバンナかどこかの草原をゆったりと駆ける一頭のキリン。
ブルーグリーンの色合いで。
もともとキリンが好きだった…気がするけど。
サバンナをゆったり駆けるキリン…のイメージは明らかにアルバムジャケットの影響。
だから、動物園で動物を見ることは、あまり好まない。
優雅に駆けていてほしい。
だのに!
そのキリンが「洗ってくれろ」とやってくる、ですって?
…サバンナキリンが好きな私にとっては、どうしようもないような設定ですけど。
でもまあ、あの長い首を洗うとなれば、大変だろうな。
2,3時間は掛かりそうな気がする。
「折りたためたらいいんだけど」の例が、「傘」に並んで「月日」…というのも面白いけど。
…そうか。「月日」は折たためるものなのか…。
そうかもしれない。なくなるわけじゃないけど、折りたたんで見えなくする。
そうして、当面はなかったかのようにして生きていく、というのもあるかもしれない。
それから…、洗ったものは、やっぱり干さなきゃ、ね。
キリンも例外ではないのか。
「遠く離れた職場」から、自分の家にいるキリンを眺める気持ちってどんなだろう?
「窓から/洗いたての首を突き出して/じっと/遠いところを見ているキリン」を見ているとどんな気持ちになるんだろう?
キリンも…洗ってもらってサッパリした首で、どこを見ているんだろう?
サバンナを夢見てる?
けれど、サバンナでは誰も洗ってはくれないよ。
乾いたサバンナでは、洗う必要がないんだろうか?
湿気の多い日本だから?
と、私の妄想も限りなく広がっていくのでありました。
画像は、「動物園にいる動物」外で、私が一番好きな杏樹(アンジー)。
5月に初めてドッグランに連れて行ったら、意気揚々と、別のワンコのボールをくわえて走りました。