朝の、まだ始発の電車が走らない時間。
私は、長田弘の詩集『深呼吸の必要』を開く。
今日の詩は? ああ!これだ。
贈りもの 長田弘
幼い誕生日の贈りものに、木をもらった。
一本の夏蜜柑の木。木は年々たくさんの実を
つけた。種子がおおく、ふくろはちいさかっ
たが、噛むと歯にさくさくと、さわやかな酸
っぱい味がした。立派な木ではなかったが、
それが自分の木だとおもうと、ふしぎな充実
をおぼえた。葉をしげらせた夏蜜柑の木をみ
ると、こころがかえってきた。
その夏蜜柑の木は、もう記憶の景色のなか
にしかのこっていない。あのころは魂という
のはどこにあって、どんな色をしているのだ
ろうとおもっていた。いまは、山も川原もな
い街に暮らし、矩形の部屋に住む。魂のこと
はかんがえなくなった。何が正しいかをかん
がえず、ただ間違いをおかすとしたら、自分
の間違いであってほしいとおもっている。部
屋には鉢植えの一本のちいさな蜜柑の木があ
る。それは、誕生日に年齢を算えなくなって
から、きみがはじめて自分で、自分に贈った
贈りものだ。
ときどきアントン・バーウォグイチの短い
話を読む。人生はいったい苦悩に値するもの
なのだろうかと言ったチェーホフ。大事なの
は、自分が何者なのかではなく、何者でないか
だ。急がないこと。手をつかって仕事するこ
と。そして、日々のたのしみを、一本の自分
の木と共にすること。カウンセリングルーム 沙羅Sara
あなたはあなたのままで大丈夫。ひとりで悩みを抱え込まないで。
明けない夜はありません。
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