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  1. コラム
  2. 沙羅 Sara の「ほっと一息」コラム
  3. 長田弘の詩
 

沙羅 Sara の「ほっと一息」コラム

沙羅 Sara の「ほっと一息」コラム
日々の暮らしの中で、ちょっと気づいたこと、ほっと一息つけるようなことがらをコラムとしてまとめました。
あなたの「お役立ち」になるかどうか、心許ないですが、興味を持った「カテゴリー」から読んでみてくださいね。

カテゴリーごとに選べます。
選択
長田弘の詩
2020/12/14
光陰の矢の数と、おなじ枚数の年賀状〜長田弘の詩「賀状」(『深呼吸の必要』所収「大きな木」から)〜  
朝4時過ぎ。辺りは真っ暗、である。
このところ、日が差すのは7時を過ぎてから。
そうね。冬至に向かって日中がどんどん短くなる、
と同時に、日の出が遅くなっていっている。

おもむろに『深呼吸の必要』を開く。
ああ、久しぶり。
「賀状」に目が止まる。


  「賀状」  長田弘

 

 古い鉄橋の架かったおおきな川のそばの中

学校で、二人の少年が机をならべて、三年を

一緒に過ごした。二人の少年は、英語とバス

ケットボールをおぼえ、兎の飼育、百葉箱の

開けかたを知り、素脚の少女太刀をまぶしく

眺め、川の光りを額にうけて、全速力で自転

車を走らせ、藤棚の下で組みあって喧嘩して、

誰もいない体育館に、日の暮れまで立たされ

た。

 二人の少年は、それから二どと会ったこと

がない。やがて古い鉄橋の架かった川のある

街を、きみは南へ、かれは北へと離れて、両

手の指を折ってひらいてまた折っても足りな

い年々が去り、きみたちがたがいに手にした

のは、光陰の矢の数と、おなじ枚数の年賀状

だけだ。

 元旦の手紙の束に、今年もきみは、笑顔の

ほかはもうおぼえていない北の友人からの一

枚の端書を探す。いつもの乱暴な字で、いつ

もとおなじ短い言葉。元気か。賀春。

続き
長田弘の詩
2020/11/10
自分の影法師と対話する〜長田弘の詩「影法師」(『深呼吸の必要』所収「大きな木」から)〜  
朝、いつもより少し遅く目覚めて『深呼吸の必要』を開く。
パラパラとページをめくって。
「影法師」と題された詩に目を止める。

夕方の、子どもたちのキャアキャアいう声が聞こえる。
少し長くなった影を追い掛ける姿、をその中に見る。

…誰の記憶? 子どもの頃の自分の遠い記憶?
いや、それは定かでなく。
…単に、脳が見せるイメージ、であるだけかもしれない。


  「影法師」  長田弘

 影を踏む遊びがあった。たそがれから夜に
かけての子どもの遊びだった。二人ないし三
人で、あらそって、たがいの影を踏む。頭の
影を踏まれたら、負けだ。日の落ちぎわは、
影が長い。長い影は、塀に折れてうつるよう
にしなければ、だめだ。街灯がついたら、誰
も負けない。いざとなったら、街灯の真下に
逃げる。影が足もとに跳んできて、さっと消
える。
 たがいに追いかけながら、逃げながら、自
分の影を確かめながら、影法師を長く短くし
ながら、騒ぎながら、「さよなら、またね」
と叫んで、家に駆けこむまでの、たのしい路
地の遊びだった。いまはみなくなった子ども
の遊びだ。きみはおもいだしてふと、ドキリ
とすることがある。ひょっとしたら子どもた
ちは、今日どこかに自分の影法師を失くして
しまったのだろうか、と。

続き
長田弘の詩
2020/11/09
永遠なんてものよりもずっと永くおもえる一瞬〜長田弘の詩「公園」(『深呼吸の必要』所収「大きな木」から)〜  
お天気のいい午後。少し、奈良公園を歩きたくなって。
アンジーを誘って、出掛ける。

ああ、いい天気!
少し、木々の葉も色づいて。

木陰で私は『深呼吸の必要』を広げる。

  「公園」    長田弘

 低く枝をひろげた梅の木々が、ゆるやかな 
丘の斜面にひろがっている。花の季節が去る
と、日の光がつよまってくる。木々の緑が濃
くなる。明るい静けさが深くなる。微風を手
でつかめそうである。きみはベンチにすわっ 
て、道すがらに買ってきた古本をめくる。梅
の木々のあいだで子どもたちは、フリスビー
に夢中だ。老人と犬が、遊歩道を上ってくる。
 街のなかの丘のうえのちいさな公園だ、赤
ん坊をのせたバギーを押して、少年のような
父親と少女のような母親が、笑いあって通り
すぎる。鳩たちが舞いおりてきて、艶のある
羽根をたたむ。クックーと啼いて、ポップコ
ーンを突つき散らす。近くのような遠くで、
誰かがトロンボーンを吹いている。日曜日の
公園の午後には、永遠なんてものよりもずっ
と永くおもえる一瞬がある。

続き
長田弘の詩
2020/10/22
歩くことをたのしむために街を歩く〜長田弘の詩「散歩」(『深呼吸の必要』所収「大きな木」から)〜  
朝。5時過ぎは、まだ暗い。明るかった夏はとうに過ぎた。
冬へと向かっていることを意識させられる。
今朝は…ああ、この詩。

  「散歩」   長田弘

 ただ歩く。手に何ももたない。急がない。
気に入った曲り角がきたら、すっと曲がる。
曲り角を曲ると、道のさきの風景がくるりと
変わる。くねくねとつづいてゆく細い道もあ
れば、おもいがけない下り坂で膝がわらいだ
すこともある。広い道にでると、空は遠くか
らゆっくりとこちらにひろがってくる。どの
道も、一つ一つの道が、それぞれにちがう。
 街にかくされた、みえないあみだ籤(くじ)の折り
目をするするとひろげてゆくように、曲り角
をいくつも曲がって、どこかへゆくためにで
なく、歩くことをたのしむために街を歩く。
とても簡単なことだ。とても簡単なようなの
だが、そうだろうか。どこかへ何かをしにゆ
くことはできても、歩くことをたのしむため
に歩くこと。それがなかなかにできない。こ
の世でいちばん難しいのは、いちばん簡単な
こと。

続き
長田弘の詩
2020/10/20
大事なのは、自分は何者なのかではなく、何者でないか〜長田弘の詩「贈りもの」(『深呼吸の必要』所収「大きな木」から)〜  

朝の、まだ始発の電車が走らない時間。

私は、長田弘の詩集『深呼吸の必要』を開く。

今日の詩は? ああ!これだ。

 

   贈りもの        長田弘

 

 幼い誕生日の贈りものに、木をもらった。

一本の夏蜜柑の木。木は年々たくさんの実を

つけた。種子がおおく、ふくろはちいさかっ

たが、噛むと歯にさくさくと、さわやかな酸

っぱい味がした。立派な木ではなかったが、

それが自分の木だとおもうと、ふしぎな充実

をおぼえた。葉をしげらせた夏蜜柑の木をみ

ると、こころがかえってきた。

 その夏蜜柑の木は、もう記憶の景色のなか

にしかのこっていない。あのころは魂という

のはどこにあって、どんな色をしているのだ

ろうとおもっていた。いまは、山も川原もな

い街に暮らし、矩形の部屋に住む。魂のこと

はかんがえなくなった。何が正しいかをかん

がえず、ただ間違いをおかすとしたら、自分

の間違いであってほしいとおもっている。部

屋には鉢植えの一本のちいさな蜜柑の木があ

る。それは、誕生日に年齢を算えなくなって

から、きみがはじめて自分で、自分に贈った

贈りものだ。

 ときどきアントン・バーウォグイチの短い

話を読む。人生はいったい苦悩に値するもの

なのだろうかと言ったチェーホフ。大事なの

は、自分が何者なのかではなく、何者でないか

だ。急がないこと。手をつかって仕事するこ

と。そして、日々のたのしみを、一本の自分

の木と共にすること。


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