「雨、のち…… 」 佐伯 祥
失くしたわけではないのだけれど
いや、それより 最初っから
あったかどうかも さだかでないのだけれど
とにかく 気づいたときには
なかったのだ 翼が
急いで 急いで!
でないと 君を放っていってしまうよ
そんなふうに
風は私を追い越していった
戸惑う気持ちなど
てんで お構いなしに
あとには ひとにぎりの とおり雨
その最後の一滴を受け取ろうと
スキップ気分で駆けだしたら
足許の水溜まりに
逝(い)ってしまったものたちの 翳(かげ)が
映ってた
ふと 見上げると
雨上がりの 流れゆく雲の隙間から
抜けるように 青い
空
まだ、翔(と)べるだろうか
(「詩芸術」1984年7月号)